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神戸地方裁判所 昭和47年(レ)66号 判決 1972年11月30日

控訴人 鍬先正夫

右訴訟代理人弁護士 沢田剛

被控訴人 萩原智慧子

被控訴人 萩原恵子

主文

原判決を取消す。

被控訴人らの請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、別紙目録(一)記載の土地が被控訴人らの共有であること及び控訴人が右土地上の別紙目録(二)記載の建物に居住して右土地を占有していることは当事者間に争いがない。

二、抗弁について

長田達治は、被控訴人らから別紙(一)の土地を賃借し、同土地上に別紙(二)の建物を所有して右土地を占有し、控訴人が右長田からその建物を賃借していることは当事者間に争いがない。

ところで、建物の居住者は、建物に居住していることによりその建物の敷地を占有していると解されるが、建物居住者の右敷地の占有は、建物所有者の敷地占有が直接的であるのに対比すると、建物所有者の敷地占有を通しての占有であるから、間接的な占有ということができるし、また、建物の占有なくして敷地の占有はあり得ないので建物の占有に従属する占有ということができる。

建物居住者の敷地占有が右のようなものであり、かつ建物居住者の土地所有者に対する土地の占有権原は、建物所有者の土地所有者に対する土地の占有権原に依存し、後者の正当なる権原があることによって前者の権原もまた正当なものとされ、このように法律状態が基本と依存の関係にあることを考えると、土地の所有者から建物の所有者に対する(建物収去)土地明渡請求の訴えがなされ、その判決がすでに確定している場合には、後になって土地所有者から建物の居住者に対する土地明渡請求訴訟が提起されても、建物居住者は、その訴訟において、土地所有者と建物所有者間の右確定判決の効力を自己の利益に援用し、抗弁として主張することができるものと解するのが相当である。

けだし、右のように解することにより、①建物所有者に対する土地明渡請求訴訟と建物居住者に対する訴訟とを判断に矛盾なく統一的に解決できるうえ、②一挙的に解決できるので重ねて審理する必要がなく訴訟経済にも合致し、③また右のように解しても、援用される確定判決の当事者はすでにその訴訟において十分攻撃防禦の機会が与えられ訴訟手続上の保障が尽されていたのであるから訴訟法的には特に不利益はないからである。

そこでこれを本件についてみると、本件訴訟記録によれば、別紙(一)の土地の所有者である被控訴人らは別紙(二)の建物の所有者である長田達治に対し、右土地の賃貸借契約の終了に基づく原状回復として、右建物の収去と右土地の明渡を求める訴えを控訴人に対する本訴請求と同一の訴状で原審たる姫路簡易裁判所に提起したこと(同裁判所昭和四五年(ハ)第一一号)、昭和四七年五月九日言渡の判決で、右長田に対する請求は、土地の賃貸借契約の終了が認められないとの理由で棄却され)、なお控訴人に対する本訴請求は控訴人がなんらの弁論をしないから請求原因事実を自白したものとして認容された)、被控訴人らと長田間の右判決は控訴期間の経過により昭和四七年五月二三日限りで確定したこと、が明らかである。

そうすると、被控訴人らから建物所有者たる長田達治に対する建物収去土地明渡請求が右長田の勝訴(被控訴人らの敗訴)に確定している以上、その長田から同建物を賃借している控訴人に対しその建物からの退去とその敷地たる別紙(一)の土地の明渡を求める被控訴人らの本訴請求は、失当といわなければならない。

三、よって、控訴人に対する被控訴人らの本訴請求を認容した原判決は失当であって、本件控訴は理由があるから、民事訴訟法三八六条により原判決を取消し、被控訴人らの請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法八九条、九三条、九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下郡山信夫 裁判官 角田進 牧弘二)

<以下省略>

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